水素爆鳴気
ペットボトルの中で水素爆鳴気を爆発させると,何が起こるか思考実験してみよう.
反応熱によってペットボトルの温度がどれぐらい上がるか考えてみよう.酸水素ガスの反応熱は1モルの水素の燃焼につき240 kJ (反応後1気圧の水蒸気が生じると考えた場合)である.例えば,500 mLのペットボトルであれば,中の1気圧の気体は1/40モル程度,そのうち水素は1/60モル程度だから,発熱量は4 kJ程度である.生じる水分子は1/60モル,多原子分子である水の水蒸気の比熱はおよそ3R=24 J/mol•Kと考えると,水蒸気温度は10000 Kとなり,ペットボトルの内圧は \(p=nRT/V=(1/60)\times 8\times 10000/0.0005=2.6 \mathrm{MPa}\) =26気圧となり,安全限界をはるかに越えるので,破裂の危険がある.
もし破裂しなかった場合,発生した熱はボトルをあたためはじめる.すべての熱が気体からボトルに移ったとして,ボトルの温度は何度上がるだろうか.
PETの比熱は1250 J/kg•K,500 mL入りのボトルの質量は35 gとすると,4 kJの熱で91 K上昇することになる.実際にはすべての熱が瞬時にペットボトルに伝わることはないが,一方でペットボトルは熱伝導が悪いので,内壁がさきに熱をたくさんひきうけて温度が上がってしまい,融ける可能性がある.これはペットボトルの機械強度を下げ,破裂の原因になりうる.
いずれの結果を見ても,ペットボトル内で水素を爆発させるのはやめておいたほうがよさそうだ.もしやってみたいなら,酸素の代わりに大気を使えば,温度も圧力も下がってかなり安全になるだろう.