氷は水に浮く
2018 NASA
液体のほうが固体よりも密度が高い物質は、水以外にもいくつか知られています。(1) 一方、水のように、融点よりも高温の液体状態で密度が最大になり、低温になるほど膨張する液体はほかにはないようです。(→水は4℃以下で膨張する)
このことは、地球の海の性質にはかり知れない影響を与えています。氷のほうが密度が高かったら、海氷は凍ると同時に海底に沈みます。一旦凍ると、対流のような効率のよい熱交換ができなくなるので、海の表層があたたかくなっても、海底の氷が融けるには莫大な時間がかかり、海底のツンドラ化がおこると考えられます。
密度が4度で最大になる性質もまた非常に重要です。現在の地球の深海底の温度は、どこもほぼ4度で一定ですが、これは4度の水が最も密度が高いからです。氷のほうが密度が低いとしても、もし、4度ではなく0度で密度が最大になるとしたら、何がおこるかを考えてみましょう。まず、海表面で冷却された水は、温度が低いほど沈むので、深海温度は0度(あるいはそれ以下の過冷却水)になるでしょう。そのような環境では、ささやかなゆらぎや、海水中の固体を核にして、氷の結晶化が海底でおこります。できた氷は水よりも密度が低いのですぐに上昇をはじめます。ただし、表層に至るまでに温度が上昇して融解するかもしれません。このような状況は、ちょうど雲の中で、氷の核が形成されるのに似ています。深海底は様々な大きさの氷の核が存在し、光を散乱して雲のように不透明になることでしょう。そして、海底の温度が特に低くなると、夕立のように、海底から「雪」が舞いあがり、海表面をうめることでしょう。氷が形成される時には、塩分は氷から排除されますから、海底には重く塩分濃度の非常に高い海水が残されることになります。その一部は、氷が海底から舞いあがる際の縦海流により攪拌されるでしょうが、深海底は高濃度の塩水が滞留するかもしれません。
現在の地球では、極地で冷却された海水は海底を南下し、赤道であたためられて表面にふたたび北上するという大循環をしていますが、深海底で氷が形成されるような世界では、深海の氷は比較的極地に近いところで表層に上がってきてしまうでしょう。赤道付近の深海には、とりのこされた重い海水が滞留してしまうかもしれません。海流のパターンは現在の地球とは全くことなるものになります。
余談ですが、60度の与那国泡盛に氷を入れると沈みました。また、この泡盛では、氷が異常に速く融解します。融けてできた水は泡盛と混ざりにくいために白濁します(非常に大きな密度揺らぎによる光の散乱現象)。また、水は氷よりも比重が大きいため、氷が融けるにつれ、底の水の層の上に氷がのっかる形で徐々に水面(酒面)に上昇してきます。ウィスキーでは氷が沈むのは見たことがありません。お試し下さい。(2006-4-6)
- (1) ダイアモンド構造の結晶を形成する物質はたいてい液体よりも固体のほうが密度が小さいようです。
- もう一つ余談。地殻を形成するケイ素、炭素、水、シリカなどは、すべてダイアモンド型の結晶構造を形成し、液体よりも固体が軽い例外的な物質ばかりです。逆に固体のほうが重い物質は、みなマントルの下に沈んでしまったのだと思われます。水のような性質を持つ物質は例外的であるにも関わらず、地球表面では圧倒的にメジャーな物質でもあります。 - matto 2010年05月21日 23時13分58秒
(2007年6月)
( 2018-10-22 加筆)