水素水

世をにぎわせている水素水について考察する。

水素水については、

  • 薬効があるのか
  • 水素水から水素を体内にとりいれられるのか

の2つに分けて議論すべきだろう。

前者は医学の範囲であって、水素を体内にとりいれたら薬効があるのかどうかについては、私は素人同然ではあるけれど、あとで一応意見を書く。

後者については、物理化学者として考察しよう。

第1点。水素は、二酸化炭素と比べて非常に水に溶けにくい。いや、正しくはCO2が格別水に溶けやすく、酸素や窒素や水素はどれもほとんど水に溶けないほうが普通である。

炭酸水には、二酸化炭素はかなりの量とけている。なにしろ、1気圧1 Lの気体に含まれる分子数よりも、1気圧1 Lの炭酸水に溶けているCO2分子の数のほうが多いのだ。そのせいで、あの独特のシュワッとした食感が生じる。

これに対して、水素は100分の1ぐらいしか溶けない。つまり、水素水で、同じぐらいシュワッとした食感を得るためには、100気圧程度の圧力を加える必要があり、おそらく水素水の容器は、厚さ3 mmぐらいの鉄製でないと耐えられない。市販の水素水はどう見ても加圧容器ではないので、内圧は1気圧程度、ということは100%水素が充填されていたとしても、気のぬけた炭酸水の数十分の1の水素しか水には溶けこんでいない。量が少なすぎるのである。

第2点。水素はほかのどの気体よりも拡散速度が速い。それは、水素分子が最も軽い分子だからだ。だから、水素水のボトルの封をあけた瞬間、中の水素気体は瞬時に容器から拡散して消失してしまうだろう。水の中に溶けている水素が抜ける速度もまた、二酸化炭素よりもはるかに速いものとなるだろう。だから、もし気体水素もきちんと体内にとりこみたいなら、直接口を付けられる特殊な飲み口がついていなければいけないが、そのような商品はないようだ。

第3点。例え水素水を摂取したとしても、気体は腸ではほとんど吸収されないだろう。考えてもみてほしい。水素の100倍も二酸化炭素が溶けている炭酸水を飲んで、窒息した人がいるだろうか。あんなに水に溶けやすい二酸化炭素も、腸壁を越えて血液には入れないのだ。

一方で、100% CO2気体を直接吸入すれば、たちまち窒息するはずだ。当然だが、肺は気体をとりいれるのに適した構造になっている。だから、もし本当に水素を体内にとりこみたいのなら、飲み物から摂取するような遠回りかつ非効率な方法ではなく、直接肺に吸いこむべきであろう。(注: 医者の指示なしにやってはいけない。まず、ヘリウムを吸入して卒倒する人がいることから、水素にも麻酔効果があるはずであり、下手をすると心停止に至る。また、水素に引火すれば、3000度の炎が肺を焼き、これもまず命はない。)

そして第4点。人間は一日に1 Lていどのおならをし、その10%は水素であるらしい。つまり、外からとりこめないばかりか、我々はむしろ腸内で水素を生産して、そのまま捨てているのである。この水素を補充するためには、水素水を一日5 L程度飲めば良いはずだが、それも結果的にはおならの量をすこし増やすことになるだけだろう。

第5点は化学の視点から。血中に溶けこむ水素の量もまた微量である。それがもし患部(どんな作用機序かは知らないが)に届いたとして、水素分子は適切に反応できるのだろうか。水素は活性酸素と結びつくような説明がなされているようだが、活性酸素の量もまた非常に少ないはずで、それが水素と衝突し反応するというのは想像しがたい。(もっと高性能な活性消去物質が体内にあるはず) 先にのべたように、水素には麻酔作用のように負の薬効(害)もあるかもしれないし、別の分子にもっとひどい害をおよぼすかもしれない。体内での作用機序がわからないものをむやみに摂取するのはあまりおすすめしない。

まとめると、

  • 水素水を飲んでも、水素は体内にはとりこまれない。だから何も起こりそうにない。

以上。

water 雑記

2016-8-19

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