氷の19種類の多形のうち、通常の氷Iよりも軽い(密度の小さい)氷は2つしかありません。氷XVIlIは、もう一つの低密度氷XVIと同様、気体と水の固溶体(包接水和物)から、気体分子を抜くことで作られました(Del Rosso 2016)。
氷XVIIは、高圧下で水素と水をいっしょに凍らせてできた水素氷から水素を抜いて作ることができます(水素を抜いたあとの空洞に他の気体が入ってきてしまいそうに思えますが、水素より小さい分子がないので、空洞は真空のまま残ります)。水素と水の固溶体の結晶構造は3種類が知られていますが、うち2つは、構造を保ったまま水素をとりのぞくと、氷Icと氷IIになり、新しい氷とは言えません。最後の一つは、らせん状のネジ穴構造をもち、その穴の中に水素分子を大量にかかえこんだ、独特の結晶構造を持っています。(これまでに見つかった氷の多形のなかで唯一光学活性を示すはずです。)
通常の氷Iよりも密度が低いということは、通常の氷Iよりも低い圧力で安定になることを意味しますが、気体の圧力は0気圧(真空)までしか低くならないので、氷XVIIは安定相にはなれない氷(準安定氷)です。
気体と水の固溶体からガスを抜いて新規な氷結晶を作る、というアイディアで、ほかにもいろんな氷が作られると思われましたが、今のところ報告はありません。気体を抜くためには、気体が動けるだけの通路が必要になりますが、そのような構造の固溶体結晶はほかにはないのです。
準安定氷XVIIから、別の準安定氷Icを作ることができる、という報告もあります(Del Rosso 2020)。安定相は、安定であるがゆえに、別の構造には容易に変化しないのですが、準安定氷は安定でないおかげで、別の結晶構造に生まれかわるチャンスももっているのですね。同様に準安定な氷IVや氷XIIからも、また新しい氷結晶が生じるかもしれません。
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References
- (Del Rosso 2016) Del Rosso, L., Celli, M. & Ulivi, L. New porous water ice metastable at atmospheric pressure obtained by emptying a hydrogen-filled ice. Nat. Commun. 7, 13394 (2016).
- (Del Rosso 2020) Del Rosso, L. et al. Cubic ice Ic without stacking defects obtained from ice XVII. Nat. Mater. 19, 663–668 (2020).