ice II

数ある氷の多形のなかでも、氷IIは異質です。

例えば、私たちが普段目にする氷Iは、冷凍庫にどんなに長いあいだ放置しても、別の氷に変わったりはしません。氷Iは、1気圧0℃以下では熱力学的に最も安定な状態(安定相)なので、これ以上何か別のものに変わる心配はありません。

しかし、氷Iを極低温(70 K以下)に冷やすと、氷XIという別の安定相に変わります。

氷Iと氷XIは、結晶構造は全く同じなのですが、結晶のなかの水分子の向きが違います。極低温で生じる氷XIの中の水分子は向きがそろっているのですが、通常の氷Iでは水分子の向きがまちまちです。このような変化は、磁石の性質にも似ています。磁石は、小さな磁石(スピン)の集合体で、低温ではスピンはそろっていますが、キュリー温度以上になるとスピンの向きがでたらめになって、磁性がなくなります。

このように、極低温と常温付近で水分子の向きのそろい方が違う、という性質は、氷Iと氷XIだけでなく氷III氷IX、氷VIIと氷VIIIなど、高圧氷でも普遍的に見られる現象です。水分子の向きがそろっていない氷を水素無秩序氷、そろっている氷を水素秩序氷と呼びます。氷の結晶構造の種類が非常に多い一因です。

数ある氷の多形のほとんどで、水素無秩序氷を極低温まで冷やせば水素秩序氷になり、逆に極低温の水素秩序氷をあたためれば水素無秩序氷になる、という変化が普遍的に起こりますが、唯一、水素無秩序氷にならないのが氷IIです。なぜ氷IIが水素無秩序氷になれないのかについては、私たちの研究NMYT2016で議論しています。

氷IIは、番号からもわかるように、通常の氷とは異なる構造と性質を持つ最初の氷として、Tammannによって1900年ごろには発見されていた、最も古い多形です(Tammann 1900)。水の相図によれば、氷IIは2000気圧〜3500気圧程度の高圧下で生じ、温度や圧力範囲が氷IIIと競合しています。

雪の結晶からもわかるように、常圧で私たちが目にする氷Iは六角柱状の結晶構造をもっています。氷IIの構造は、氷Iの一部の六角柱を30°回しておしつぶしたような形になっています。

ice2

図: 氷I(左)の六角柱を30°ひねると氷II(右)の骨格ができる。

References

  1. Tammann, G. Ueber die Grenzen des festen Zustandes IV. Ann. Phys. 307, 1–31 (1900).

water ice research GenIce

Linked from


Edit