氷III(3)は不遇の氷です。本来なら、水の相図の上で氷IX(氷IIIの水素秩序相)とともに2000気圧以上3500気圧以下の広い領域を占めるはずなのに、氷IIに割りこまれて、ほとんど居場所を失っています。(→水の相図)
氷IIIは水素無秩序氷に分類されます。極低温では同じ幾何構造の水素秩序氷である氷IXになりますが、氷IIIから氷IXへの変化がおこるはずの温度は、実際には氷IIのほうが安定になります。(ただし、氷IIIから氷IIへの変化は容易には起こりません)
氷IIIから氷IXへの転移温度付近では、氷IIIの水素結合の配向はやや秩序化すると言われています。これは、氷III結晶の中での水分子の環境(ある水分子から見た、周囲の分子の配置)の違いによって、結合エネルギーがかなり違うことを示唆します。というのも、氷IIIの中では、3つの隣りあう水分子がなす角(O-O-O角)が、87°〜141°とかなり広く分布しているからです。(通常の氷Iではすべて109.5°)(Kauzmann 1969)
氷IIIの結晶構造は、Kambによって解明されました (Kamb 1960)。この構造は、シリカのkeatite結晶と同型です。c軸方向から見ると、水素結合の細い四回螺旋(下の図の中の、傾いた正方形)が見えるのが特徴です。ネットワークは5、7、8員環からできているものの、6員環が含まれません。(同じように螺旋をもつ構造としては、氷T(二重らせん)、氷XVII(らせん状の空洞)があります。また、6員環をまったく持たない氷には、ほかに氷VIがあります。)
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References
- (Kamb 1960) Kamb, W. B. & Datta, S. K. Crystal Structures of the High-Pressure Forms of Ice: Ice III. Nature 187, 140–141 (1960).
- (Kauzmann 1969) Kauzmann and Eisenberg, The Structure and Properties of Water.
ice water research 氷III GenIce